私はアメリカに留学したとき、英語の伸びが速い人と遅い人がいました。
正直に言うと、私は英語の伸びが遅い側の人間でした。
たくさん勉強をしても、英会話ができないタイプの人間です。
留学中、私の友人に「エリ」という女の子がいました。
私の人生に衝撃を与えた人の1人です。
何に衝撃を与えたのかというと、彼女の英会話力です。
当時、私は20歳、エリは21歳でした。
私より1つ年上の子でしたが、エリには「勉強なんて大嫌い」という口癖がありました。
勉強嫌いと言うだけあって「この単語は何? これはどう読むの?」と、よく私に聞いてきました。
そこで私が「こう読むんだよ。こういう意味だよ」と教えていました。
すると「へえ。貴博君は英単語をよく知っているね」と褒められていたくらいです。
しかし、英会話になると、立場は逆転します。
私は何も話せず、エリはぺらぺら話し始めるのです。
私が言いたいことをエリが通訳していたくらいです。
ある日、エリの家に遊びに行ったときのことです。
エリには黒人の彼氏がいました。
私は言いたいことがうまく表現できなくて、もぞもぞしていました。
するとエリが、私と黒人の間に立って、通訳してくれていました。
エリが英語でなんて言ったのかわからないくらい、一瞬で英語をぺらぺらと話します。
私は自分の言いたいことが口にできません。
黒人の話が聞き取れないだけでなく、エリが話す英会話まで聞き取れない状況でした。
この状況に、私はショックを受け、落ち込みました。
「なぜこんなに勉強しているのに、英語がうまく話せないのか」
「なぜ勉強していない彼女が、こんなに流暢なのか」
「自分には、そもそも才能がないのではないか」
かなり悩みました。
本当に彼女の英語力は、すさまじいものがありました。
一生懸命に勉強している私より、全然勉強をしていない彼女のほうが英会話がうまい。
もともと彼女は英語に体当たりでした。
英語は知らないけれど黒人が大好きで、彼氏を作りたいから、行き当たりばったりで英語で話しかけていました。
エリは自分の英会話を、すべて彼氏から教わったといいます。
「ここはこういえばいい。こういうふうに表現すればいい」
彼氏ということもあり、親身に、丁寧に教えてくれます。
エリはだんだん英語を身につけていったのです。
エリは、大変な黒人好きで、彼女が付き合った男性は、すべて黒人とのことです。
以前に付き合っていた黒人の彼氏は、警察に捕まり、エリも証人として裁判に出たことがありました。
もちろんアメリカの法廷ですから、すべて英語です。
実は、エリの英会話力に偏りがあり、法律関係、裁判関係の英単語をよく知っていました。
法廷で彼氏が問答されているのを、エリが聞き答えしていた経験があり、法律関係の単語に詳しかったのです。
経験したことは、やはり身につくのが早いです。
なかなか忘れません。
そんな、英語の伸びが速い人と遅い人の違いを見ていると、私とエリに限りませんでした。
だいたいパターンは同じです。
英語の伸びが遅い人は、しっかり勉強をしてから英会話に挑戦しようとしています。
今思えば、気の長い話です。
笑い話になります。
経験者でさえ失敗するというのに、英会話を経験する前に勉強をして、ぺらぺらになろうとするのは、とんでもない話です。
私は失敗を恐れ、完璧に勉強をしてから英会話に挑戦しようとしていました。
だからいつまで経っても、英語が話せませんでした。
挑戦する前から完璧にしようというのは、伸びが遅くなる方法です。
英語の伸びが速い人は、少し準備ができれば、いきなり外国人に話しかけます。
もちろん英語の勉強が不足している状態ですから、失敗します。
失敗をしても、笑ってごまかすくらいでいい。
たいていの場合、外国人が「ここが違うよ。こういうふうに言えばいいよ」と教えてくれます。
生きた英語をその場で学べます。
恥ずかしい経験をしたからこそ、吸収が速くなります。
勉強だけでは身につくのが遅いですが、体験すれば吸収は速くなります。
エリと私の違いを見てから、私は自分の勉強法を根本的にやり直しました。
私の人生に衝撃を与えたのです。
できるだけ英語の文法も気にせず、外国人に話しかけるようになりました。
話し相手がいないときには、徹底的に音読をして声に出します。
ようやく英語が少しずつ話せるようになったのです。