「お兄ちゃん、ちょっと来て! 大変!」
ある朝、外にいる妹から突然大声で呼ばれました。
何があったのかと思って向かってみると、たしかに驚くべき光景がありました。
なんと飼っていた雑種犬が、子どもを数匹産んでいました。
水口家の庭には、温室のハウスがあり、そこでたくさんの子犬を生んでいました。
初めてのことに私も驚きましたし、嬉しかったことを覚えています。
犬は一度に、5匹くらい生みます。
もちろん1匹のこともありますし、一度に5匹以上産むことも珍しくありません。
水口家の犬が一気に増えましたが、親犬もその日から子育てに大忙しになりました。
何匹もいる子犬におっぱいをやります。
たくさんの子犬を親犬1人で面倒を見ている大忙しの姿は、見てよくわかりました。
そんな中、最も印象的だった光景があります。
「親犬が子犬を噛む光景」でした。
親犬が子犬を噛んでじゃれたり、子犬を移動させるために親犬が直接子犬をくわえて移動させたりします。
しかし、じゃれているわけでも移動させているわけでもない。
ただ子犬を噛んで、いじめているような光景があります。
このときの噛み方は、普通ではありませんでした。
本気に近いような噛み方で、親犬が子犬を殺してしまうのではないかと思ってしまうほどでした。
日に日にエスカレートしているように見え、あげくには子犬が痛みで泣くほどです。
「大変だ。止めないと!」
ひどいので、親犬が子犬を噛むのを止めたこともありました。
なぜ、このように強く噛むのでしょうか。
これは、親犬が施している子犬への教育です。
噛むという行為は、犬にとっての基本です。
食べるときはもちろんのこと、じゃれ合い、犬同士との争いでも、噛んで相手と接触します。
親犬が子犬を噛んだりするのは、噛み方、噛むタイミング、噛む力など、実践を通してトレーニングしているのです。
小さいころから犬世界のルールや厳しさを教えるためです。
社会勉強をさせていると考えていいでしょう。
人間でも、愛するわが子ほど強くなってもらうために、親が厳しくなりますが、犬の場合も同じです。
生んだ子犬の将来を思うからこそ、犬世界のルールを教えてあげようとしています。
たいていの場合、ほうっておいてかまいません。
横やりを入れたいところですが、むしろ横やりは犬の成長を阻害する場合が多い。
そもそも飼い主は人間ですから、犬社会のルールを教えようとするのは無理があります。
犬社会のルールを教えるのは、犬に任せるのが最もスムーズになるのです。