嘘のような本当の話を、1つ告白します。
あなたを笑わせようと思って書いているわけではないのですが、笑い話に聞こえることでしょう。
私は本を書き終えた直後、何を書いたか、あまり記憶がありません。
本を書き終えたとき、嬉しくなって校正の担当者に「書き終えました」と電話で報告します。
タイトル名を聞かれたとき、私はこう答えることがあります。
「ええと……、なんだったかな、忘れた」
嘘のような話ですが、実話です。
嬉しい感情は残っているのですが、内容があまりはっきり思い出せないのです。
書き終えて、自分で書いた文章を見直していると「そういえばこういうことを書いていたなあ」と思い出します。
ネタだから書いているのではありません。
嘘のような本当の話です。
あなたにも当てはまる「たとえ」を出せば、わかりやすいことでしょう。
学生時代、50メートル走がありましたよね。
一生懸命に全力で50メートルを走っているときの記憶は、ほとんどないはずです。
まったくないとは言いませんが、大変記憶が薄くなりますね。
全力で、一生懸命、集中しているときは、ほとんど記憶喪失に近い状態になります。
走ることそのものに集中していると、走っているときの記憶がなくなります。
これと同じ状態なのです。
一生懸命に全力で集中してスピードを出して執筆していると、記憶がほとんどなくなります。
書くことそのものにすべての気が集中して、周りが見えなくなり、書いているときの記憶があまりないのです。
書き終えて、ほっと一息ついて振り返ったときに「こんなこと書いていたんだ」と自分でも驚くのです。
だから書き終えた直後、何を書いたのか自分でもよく忘れています。
私は「これでいい」と思っています。
自分が集中できている証拠だし、このくらいになるほど集中しているのだから、満足しています。
むしろ記憶があるほうが、おかしな話です。
記憶がないほど一生懸命に走った50メートル走は、全力を出し切った証拠です。
同じように、自分が何を書いたか思い出せないほどの状態は、それだけ全力を出し切ったと言う証拠です。
私はいつしか「記憶があるか、ないか」を基準に、自分の集中力を測るようになりました。
本当に全力でスピードを出せば、必ず記憶がなくなります。
あなたがスピードを本当に出し切っているかどうかを確かめるために「記憶があるかないか」で判断すればいいのです。
記憶がなければ、集中していたということです。
全力だったということなのです。