私の実家には、大きな化粧台があります。
黒い漆塗りの本格的な化粧台です。
つやといい、大きさといい、装飾といい、雰囲気は抜群です。
しかも重いのです。
化粧台の上に乗っている三面鏡のてっぺんは、私の身長より高さがあります。
部屋の模様替えのときは、いつもその化粧台がネックでした。
顔のみならず、体全体まで映し出してくれる、大きな三面鏡がついています。
古くから使っている年代物ですが、手入れをしっかりしているので、まだまだ使えます。
母に聞くと、相当な値段がしたと言います。
実は、男の私ですら、ときどき化粧台の前に座りたくなるときがあります。
なぜか落ち着くのです。
デパートに行って、化粧台があれば、なんとなく座ってみたくなる雰囲気と同じです。
きちんとした化粧台からは「こっちにおいで」という声が聞こえます。
化粧台が呼んでいるのです。
座ってみる。
不思議です。
大きくて本格的な化粧台の前に座ると、自分が偉い人になったかのような気分になれます。
「さて、メイクでもしようか」という気分にさせてくれる力があります。
きれいな化粧台と、大きな三面鏡が迎え入れてくれると、落ち着かずにいられなくなるのです。
「ああ。この感覚か」
私は納得しました。
その化粧台が、母のメイクの時間を豊かにしているのだと思ったのです。
自然に化粧台に呼ばれ、メイクをしたくなる気持ちにさせているのです。
その化粧台は、今、妹が使っています。
妹も、メイクがうまいのです。
化粧台の力です。
妹もいつの間にか化粧台に呼ばれて、自然と化粧台に座ってしまい、メイクをしたくなる衝動を得ているのでしょう。
本当に品質のいい化粧台は、あなたのメイクの力を向上させてくれます。
化粧台の前に座りたくなる。
メイクをしたくなる。
化粧台には、そうした不思議な力があるのです。