海外出張の多かった父は、ときどきお土産を買ってきました。
たまたま母の誕生日と重なった日、父は奮発したお土産を買ってきました。
世界の有名ブランド「Coach」のハンカチを買ってきました。
きれいな柄で、見るからに高級そうな雰囲気が出ています。
値段を聞くところによると、なんと数万円もしたそうです。
たった1枚のハンカチに、数万円という値は破格です。
しかし、です。
せっかく素晴らしいプレゼントなのに、母はまったく興味を示しません。
実は、母はブランドものにまったく興味がない人です。
子どもである私の場合、母が高級ブランドを身につけているところを、いまだかつて見たことがありません。
逆に、世界一、ブランドが似合わないというほうが合っているかもしれません。
見た目は、単なる田舎のおばさんです。
父が価値あるハンカチを買ってきたというのに、母はその価値をまったく理解していません。
「こんなハンカチが数万円もするのか。もったいない」
節約志向の強い母は、父の高額な買い物に、少しかっかしていたくらいです。
日頃努力しながら節約しているのに、1つ数万円の買い物をした父に怒っています。
これは夫婦間でブランドものを贈る際にありがちなトラブルです。
誕生日だからとはいえ、どこにでも売っているような安物を贈るのもむなしい。
だからとはいえ、高級なものを贈ると、逆に夫婦喧嘩の元になる。
父も悪気があって、買ってきたわけではありません。
母の誕生日に、母を喜ばせようとして、高級なハンカチをプレゼントしました。
しかし、結果としてそれが夫婦の揉める原因になってしまった。
ああ、なんて夫はつらいのでしょう。
なかなか難しい状況です。
父も複雑な心情になっていたようです。
せっかくのブランド品も、価値を理解していないのは悲しいものです。
骨董品に興味のない人が、なぜあんな壺が数百万円もするのか理解できないのと同じです。
理解している人は数百万円支払っても欲しいと思いますが、興味がない人には、ただでもいらないと思います。
価値を理解していないと、どんな高級なものでも、普通のものに見えてしまいます。
しかし、そんな中、唯一伝わったものがありました。
高級なハンカチを贈ることで、父が母の誕生日を本気で祝おうとする気持ちです。
数万円もする高級ブランドのハンカチを贈ることで、母の誕生日を本気で祝おうとする父の気持ちが、母には伝わっていました。
ハンカチの価値は理解していないが、父からの気持ちは理解でき、結果として母は喜んでいました。
大切なのは、やはり物より気持ちです。
高級な物を贈れば気持ちが必ずしも伝わるとは限りません。
きちんと気持ちを込めたうえで、高級品を贈ることです。
家計が苦しい中、奮発して高級なものを贈るのは「それだけ本気なんだよ」という気持ちを伝える効果があるのです。