ある日、私は東京都内の温泉に出かけようと、インターネットで路線を検索しました。
東京にはたくさんの路線があり、クモの巣のようです。
見慣れない駅で乗り換える必要があり、すぐ頭で覚えられない複雑な経路だったので、紙に書いてメモしました。
難しい漢字の駅名もありました。
書いている途中、字を間違えて、横線を引っ張って書き直したりして、ようやくメモを仕上げました。
「よし! メモしたから、もう大丈夫だ」
ここまでは、よくある光景です。
問題は、その後でした。
さあ、温泉に出かけようと家を出て、駅に到着して、電車に乗りかけたときです。
私は、とんだドジをしでかしたことに気づきました。
せっかく書いたメモを、家に置いてきてしまったのです。
これではせっかくのメモも意味がありません。
自分の不注意に情けなくなりました。
そう思うのもつかの間、とりあえず電車に乗って、さてどうしようかと考えました。
そうすると、面白い出来事が起こりました。
頭で覚えられないと思ってメモしたことが、なぜか頭に入っています。
覚えようと意識したわけではありませんが、なぜかしっかり頭に入っています。
私が書いている途中、駅名の字を間違って書き直したことが、逆に字に対して意識を向け、思い出すことが容易になりました。
昔から言われている、暗記の知恵の1つですが「書いたことは覚えやすい」と言います。
実際、それを強く実感できた出来事でした。
手を動かして書けば、より幅広く感覚器官を使うことになるため、記憶にも残りやすくなります。
字を間違えたりすることも、よい効果を生み出します。
「間違えた!」と悔しがることで、間違えた対象に強く集中が向くからです。
物覚えをよくするためには、まず「手で書く」という当たり前の習慣を実践しましょう。
手で紙に刻み込んだことは、頭にも刻み込まれるのです。