寿司屋で交わされている言葉に耳を傾けると、不思議な単語を聞くことがあります。
「ムラサキをください」
「お愛想、お願い!」
「あがり、ください」
聞き慣れない言葉ですね。
こうした言葉のことを「符丁」といいます。
いわゆる職人の間で交わされる合言葉。
どの業界でも、その業界内でのみ使う独特の言葉遣いがありますが、まさにそれです。
「ムラサキ」は、醤油のこと。
「お愛想」は、お勘定のこと。
「あがり」は、お茶のことです。
なぜ、わざわざ言葉を換えるのでしょうか。
面白く表現を変えている理由もありますが、本来の目的は「職人同士の会話の内容を、お客さんに悟られたくないから」です。
職人同士の間で交わされる会話の中には、お客さんの耳に入れるべきではない内容もあります。
「今すぐお客さまにお茶を出しなさい。お醤油を出しなさい。お勘定をしなさい」と大声で言われると、お客さんは驚きますね。
そのため、会話のキーワードになる一部をわざとぼかすことで、お客さんに意味がわからないようにしているのです。
しかし、いくらぼかしているとはいえ、常連客は気づくことがあります。
こうした符丁の意味を悟った人の中には、博識を演じようと、むやみに使いたがる人がいます。
これはあまりよいマナーとは言えません。
知ったかぶりの姿勢のひどくなると、一転して滑稽に見えるでしょう。
お客さんが使いすぎてしまうと、ぼかしている意味がなくなってしまうからです。
あくまで職人同士が使う言葉であって、お客さんが使う言葉ではありません。
職人が使う特殊な言葉は、使わないのが無難です。
「ムラサキ」「あがり」「お愛想」とは言わず「お醤油をください」「お茶をください」「お勘定をお願いします」
という言葉を使うようにしましょう。