旅慣れた人は、カメラを持ち歩きません。
だからとはいえ、旅を楽しんでいないわけではありません。
旅に慣れれば慣れるほど、カメラは持ち歩かなくなります。
むしろ本当に旅を楽しむために、あえてカメラで写真を撮ろうとしません。
旅の思い出は、写真に残すより、心に残そうとしているからです。
カメラが重いです。
レンズから見る光景より肉眼で見る光景のほうが視界は広く、感動的です。
しかし、カメラを片手に持って写真を撮っていると、その場その瞬間の感動を味わいにくくなります。
カメラに残そうという意識が頭の片隅にあると「カメラで撮らなくちゃ」と思ってしまう。
その時点で、本当の感動を生々しく味わえていません。
自分の肉眼で見て、心から感動する行為が、おろそかになってしまう。
旅の達人はそれに気づいています。
だからこそ、あえてカメラは持たず、写真も撮りません。
カメラのレンズより、自分の肉眼で見て、しっかり心に焼き付けようとします。
旅はライブです。
その瞬間の感動は、常に最初で最後。
同じ場所に来ることはできても、同じ感動を味わうことは二度とできません。
そもそもカメラで写真を撮らなくても、人間は本当に感動すれば、自然と記憶に深く残るようになっています。
カメラは持たなくても、自然のカメラが人間に内在しています。
カメラで写真に残すのではなく、肉眼というレンズで見て、心に残すのです。