私が子どものころは、妹とケーキのことでよく喧嘩をしていました。
母がケーキを買ってきてナイフでうまく分割します。
私と妹は、ナイフで分割されたケーキをもらいます。
しかし、こういうときに限って自分のケーキのほうが小さく見え、相手のケーキのほうが大きく見えます。
「なんで自分だけケーキが小さいの? ずるい」
ケーキは同じ大きさなのに、喧嘩が始まります。
妹は当然そんなことはないと否定します。
子どものころの喧嘩というのは、いつもささいなことから始まります。
子どもにとってケーキほど目を輝かせるものはありません。
いつも食べられるわけではなく、誕生日や記念日くらいにしか食べられない貴重なものでした。
ケーキが出るたびに喧嘩でした。
皆さんにも似たような経験があるのではないでしょうか。
欲の強いものほど細かいところまでこだわってしまう。
そのため喧嘩も起こりやすい。
そんな中、私の祖母はケーキで喧嘩なんてすることはありませんでした。
ケーキのことで喧嘩をしているところなんて一度も目にしたことはなく、むしろ誰かにあげてしまうくらいです。
私がケーキの取り合いをしている横で祖母が「貴博、おばあちゃんのケーキ、あげる」と言ってくれます。
私と妹が血眼になっているというのに、祖母はケーキをあっけなく他人に渡してしまうのです。
祖母にケーキが嫌いなのと聞くと、そうではないと答えます。
おいしいし食べたいと言います。
「子どもたちが喧嘩をするくらいなら、おばあちゃんのケーキをあげるほうがいい」と言います。
祖母は欲が少ないために、喧嘩をすることがないのです。
大人として成熟しているから欲が少なく、つまらないことで喧嘩をしないようにしているのです。
ケーキの大きさが少し違うくらいのことは、人生がひっくり返るほどの問題ではありません。
むしろそんなささいなことで喧嘩をしてしまうほうが、子どものようです。
特にケーキにこだわらない人ならどうでもいいことですが、こだわりすぎると喧嘩をしやすい、ということになるのです。
強い欲を持ってはいけないわけではありません。
人間ですから欲があるのは、誰しも当然のことです。
しかし、時として、大きすぎる欲は、喧嘩のきっかけになりやすいのです。