とある舞台の、オーディションの話です。
監督は、オーディションに集まった希望者に向かって、問いかけました。
「主人公を演じたい人はいるか」
すると、全員が手を挙げました。
主人公は、かっこいいです。
誰もが、かっこいい役をしたいと思います。
次に監督は、尋ねました。
「舞台の物乞い役を演じたい人はいるか」
物乞いは、かっこ悪いです。
誰も、かっこ悪い役をしたいとは思いません。
案の定、誰もが手を挙げませんでした。
しんと静まり返った、そのときです。
一人だけ、手を挙げる中年男性がいました。
物乞いの役を誰かがやらないと、舞台は成立しません。
「仕方ないから、自分がやろう」と思ったのです。
かっこ悪い役を、自分からやろうとするから、かっこいいのです。
見た目はかっこ悪いかもしれませんが、彼の心意気は、かっこいいです。
見る人は、それをきちんと見ています。
その人のおかげで、舞台の配役が決まり、無事に成功しました。
監督は次の舞台で、彼を主役に選びました。
彼のような心を持つ人物こそ、主役にふさわしいと思ったのです。