「友人に戻りたい」
そう告白をしてきたのは、彼女からでした。
6年間付き合い続けた彼女とは、不思議な関係でした。
お互いを知るほど仲良くなる一方、見てはいけない部分も見えてくるようになりました。
過酷な経済事情、重い病、お互いの住んでいる場所、相手方のご両親について、年齢差。
詳しくは書けませんが、彼女は深い事情を背負っていました。
付き合いが長くなるにつれ、いろいろなことが具体的にわかってくるようになりました。
そういうことを考えた結果、お互いがうすうす気づき始めました。
「好きだけれど、別れなければいけない」という苦渋の決断です。
しかし、わかっていても、なかなか言い出せなかったのです。
私には、その勇気がありませんでした。
自分から言い出せなかった。
最初に言い出したのは、彼女からでした。
「友人に戻りたい」と。
「別れたい」という言い方をしないところに、9歳年上の彼女らしい知性を感じました。
もちろん最初は拒みました。
「嫌だ。ダメ。なぜ?」
子どものように駄々をこねました。
しかし、彼女の悟ったような口調に押され、友人に戻ることになりました。
泣きながら別れました。
必ずしも、嫌いになって別れるわけではない。
好きだけれど、別れなければいけない恋愛があります。
男女間の仕方ない事情で、付き合いを続けられない特殊な状況があります。
彼女は、別れて1カ月も経たないうちに、新しい彼を見つけました。
職場で一緒に仕事をしている男性とのことです。
彼女が私と別れて、わんわんと泣いているところを見て「実は前から好きだった」と告白をしてきたとのことです。
私はそれでよかったと思いました。
悔しい気持ちがないといえば嘘になりますが、悲しんだままの状態はよくありません。
人の弱みに付け込む告白の仕方と考える人がいますが、そうでしょうか。
寂しがっている人を救おうとしているのですから、むしろありがたいことです。
私は、その彼が彼女を救ったと思いました。
自分が幸せにできないと悟ったときは、潔く、ほかの人にバトンタッチをすることです。
別の人のほうが、もっと幸せにできる。
適切であることもあります。
悔しい気持ちを抑えながら、そう自分に言い聞かせました。
心の整理がつくまでしばらく時間はかかりますが、大局的に見て、それでいいのだと思いました。