「いつもの感じでお願いします」
高校時代は行きつけの理髪店があり、よくこの言葉を使っていました。
いつも行き慣れている理髪店なら、本当にこれだけで通じます。
顔と髪型が一致していて「この人の『いつもの感じ』とは、このくらいの髪型だろう」とわかってくれます。
私はこの言葉が楽で、頻繁に使っていました。
ある日、転機が訪れます。
高校2年の夏、たまたま行きつけの理髪店がお休みだったため、仕方なく違う理髪店に行きました。
なんとなく、嫌な予感がしました。
慣れていない理髪店で、髪を切る担当になった人とは、お互いが初対面でした。
初対面ですから「いつもの感じで」とは言えません。
「いつもの感じで」を言い慣れていると、いざ髪型を具体的に説明しようとするときに、うまい言葉が口から出ない。
髪型を説明するのは、難しいです。
イメージは頭に浮かんでいても、具体的に表現する言葉が思い浮かびません。
「夏だから、いつもより少し短いほうがいいかな」
とっさに思いついた言葉は「短めで」という言葉でした。
これが失敗でした。
いつも行きつけの理髪店なら、私の言う「短め」という意味をわかってくれます。
しかし、たしかに短めとはいえ、意味が広い。
初めて私を担当する新人は「短め」という言葉を「とても短く」と思ったようです。
結果「青くなるような短め」で切られてしまいました。
お坊さんのような状態です。
泣きそうになりました。
次の日、学校に行きたくはありませんでしたが、仕方なく行きました。
友人から笑われたのは言うまでもありません。
なぜこういうことが起こったのか。
私の説明が下手だったからです。
理容師は、たしかに私の指示のとおり「短く」切ってくれていました。
説明の言葉が、不足していました。
この経験を通して、ようやく「ボキャブラリーの重要性」を痛感しました。
理髪店に限りません。
美容院でも病院でも勉強でも起こりうるトラブルです。
ボキャブラリーが乏しいと、誤解されたりトラブルの原因になったりします。
私の場合、まだ髪型だけだったので、よかった。
時間が経てば髪は伸びますし、取り返しがつきます。
しかし、もしこれが病院での手術や大金が絡む契約の場合、笑っては済まされません。
もちろん恋愛でも、相手に気持ちを伝えるために「ボキャブラリー」があるに超したことはありません。
「愛している」言葉だけでなく「顔が見たい」「触れたい」など、愛を表現するボキャブラリーがあれば恋愛は豊かになるでしょう。
学生時代は、徹底的に勉強してボキャブラリーを増やす時期です。
どうやって増やすのかというと、受験勉強を通して増やします。
受験勉強で培った言葉は、日常でも大活躍します。
「リトマス試験紙のような役割がある」
「スフィンクスのような格好をしている」
「宮本武蔵のように両手に刀を持っている」
「上昇気流に乗ることができる」
「ピカソのような絵」
会話レベルの向上は、受験勉強が鍵を握っています。
受験時代ほど、さまざまな言葉を短時間で吸収できる時期はありません。
勉強のためだけに、ボキャブラリーを増やすのではありません。
自分が望む人生を歩むために、ボキャブラリーを増やします。
自分の発言によって、希望どおりの人生を歩んだり、トラブルを避けたりするために必要です。
ボキャブラリーが豊富なら、自分の意志をうまく表現できるようになるのです。