「なぜ男なのに、メイクに詳しいの?」
そう思われる読者もいるのではないでしょうか。
たしかに普通に考えると、珍しいですよね。
メーキャップ・アーティストの仕事をしているならわかりますが、そういう仕事に就いているわけでもありません。
実は、少し経緯があります。
メイクに関心を持つきっかけになったのは、19歳のころに付き合っていた彼女と始めた、同居生活でした。
同居生活は、普通の付き合いとは違った感覚です。
生活を共にするわけですから、これまで見えなかった「本当の素顔」を見ることになります。
いろいろ驚かされることはありました。
一緒に生活をすれば、何かあります。
少し変わった癖が気になる。
おならの音が大きい。
いびきがうるさい。
ノーメイクの素顔に腰を抜かす。
驚かされることの連続でした。
「まあ、そういうこともあるだろう」と、心の準備はできていたのですが、なかにはまったく想定外だったことがありました。
女性のメイクです。
私は、完全に誤解していました。
女性のメイクは、もっと適当にしているものだと思っていました。
しかし、実際、そうではありませんでした。
メイクと一言で言っても、数多くのステップがあります。
洗顔から始まり、化粧下地、ファンデーション、アイメイク、チーク、眉、リップなどです。
たくさんあって、大変そうでした。
そうした見えない努力を、初めて知って、衝撃を受けました。
男性の見えないところで、こんなに努力をしていたのかと。
朝起きて、眉毛のない顔が、メイクによってたちまち美人になります。
壮大なドキュメンタリー番組を、早送りで見ているかのようでした。
メイクには、バランスや順番があります。
少し順番を変えるだけで、劇的に美しく仕上がるようになります。
チークやリップの色のバランスが少し悪くなるだけで見苦しくなります。
彼女には、顔立ちの悩みがありました。
しかし、うまいメイクの工夫によって、顔立ちのコンプレックスを隠したりごまかしたりします。
人の目には「錯覚」という作用があります。
光、角度、形などを工夫して、事実と異なってみせるようにする方法です。
吹き出物をコンシーラーで隠したり、シェーディングで小顔に見せたり、ハイライトで鼻を高く見せたりするのです。
素直に「これはすごいな。メイクは奥が深いぞ」と思いました。
私の知的好奇心が、すごく刺激されたのです。
なにより付き合っている彼女にも、もっと美しくなる手助けをしたいとも、思いました。
そうした要因が重なり、数多くのメイク関連書籍を、勢いよく読んだ時期があったのです。