海外留学中に、出会った日本人のM君には、日本で待っている「マナミちゃん」という付き合っている彼女がいました。
しかし、遠距離恋愛をし始めてから仲が疎遠になりつつありました。
M君は、彼女に見直してもらおうと悩んでいました。
そこで、思いついたのが「高級ブランドを身につける作戦」でした。
高級ブランドを身につけていれば、彼女も少しは見直して、心を寄せてくれるだろうと思っていたようです。
「それは違う方向に走っていると思う」と私は提言したのですが、M君はやる気満々です。
ある日のこと、M君が少し興奮気味で「すごいよ。貴博君」と話しかけてきました。
「格安で偽ロレックスの時計が売られている店を見つけたよ」と言ってきたのです。
ロサンゼルスのメルローズという地区は、おしゃれな店がずらりと立ち並ぶ、最先端のファッション・ストリートです。
華やかなストリートなのですが、実は一区画ほど奥に入った裏路地には、怪しい店もあります。
M君はどこから情報を得たのか、そこで精巧な偽ブランド品を扱っている店を見つけたのです。
偽物のロレックスを見てみたい興味があったので、私もM君の車に乗って一緒についていきました。
M君が買おうとしていたのは、ロレックスの「エクスプローラー」という種類の時計です。
定価は、50万円もする高級腕時計です。
それがなんと日本円にして、3万円くらいで売られているのです。
店の人は「これはよくできているから税関でも見抜けない」と自信満々でした。
M君は喜んで購入をして、日本で待っている彼女を驚かせようとしていました。
その後、店の人が言っていたように、日本へ帰国した際、税関検査でも偽物と見抜けず入国することができたようです。
しかし、面白いのはここからです。
日本へ帰国して、数カ月ぶりに彼女との対面です。
自慢げにロレックスの時計を見せるやいなや、こう言ったそうです。
「それ、偽物でしょ」
なんと、関税検査でも偽物と見抜けなかったものを、一瞬で見破ったのです。
「え! なぜわかったの」
すると、彼女はこう言いました。
「あなたの収入で買えるわけがないから」
後日、この話をM君から聞いて、大笑いしました。
女性の勘は、侮れません。
やはりブランドは、分相応の人が持つべきものです。
見る人が見れば、人とブランド品との違和感で、すぐおかしいと気づくのです。
「女性の勘は、鑑定士より鋭い」
つくづく、そう痛感した一件でした。