私は学生時代、毎朝、格闘していたことがあります。
「学生服を着ること」です。
時間がかかるので、学校に遅刻しそうになったこともあります。
なぜ、時間がかかるのか。
着るのが難しいからです。
「学生服を着るくらい、簡単だろう」
それは大人だから言えることです。
まだ手先が不器用な幼い時期にとって、学生服を着ることほど難しいことはありません。
難しい動作の連続です。
小学生くらいのときは、学生服を着るだけで、かなりの時間を費やしていました。
最初の難関は「靴下」でした。
靴下を足に通すとはいえ、上下があります。
足のかかとに靴下のかかとが揃うように、うまく足に通す必要があり、時間がかかります。
次に格闘したのは、ズボンをはいた後にしめる「ベルト」でした。
私は男なので、ベルトでズボンを締めます。
ベルトを腰に回すとき、前ならベルトを通す穴が見えますが、後ろは見えません。
そこで、自分の手の感触でベルトを通すべき穴の位置を確認し、うまくベルトを通す必要があり、時間がかかっていました。
続いての難関は「ワイシャツ」です。
たった1枚のワイシャツを着たいだけなのに、ボタンをたくさん留めなければいけません。
1枚のワイシャツに、6つくらいボタンがあります。
シャツの前中央にある小さな穴に通せるよう、ボタンを少し傾け、素早く押し込む動作が必要です。
傾き加減といい、力加減といい、手こずる。
ようやくボタンが留まったと思えば、次は「上着」。
またボタンの連続です。
「さあ、ようやく服が着られた。学校にいくぞ」
いえ、最後にもう1つ難関が待っています。
靴を履いたときに結ぶ「靴ひも」です。
豆結びはほどけなくなるので、器用にちょう結びをしなければなりません。
慣れない私は時間がかかっていました。
この苦労は、ほとんどの子どもが通る道です。
私だけではなく、おそらくあなたもそういう時期があったのではないでしょうか。
この難しさを、私たちは、大人になるにつれて忘れがちになります。
しかし、子どもにとってこれほど難しいことはありません。
学生服は、子どもにとって難しすぎる動作が多すぎます。
早い子どもなら、幼稚園くらいのころから、学生服を着始めることになるはずです。
親は、自分ができるからとはいえ「早くしなさい」「まだ着られないの」とせかしたり叱ったりしていないでしょうか。
「学生服を着るのは本当に難しい」
この初心を、もう一度、思い出しましょう。
まだ手先が十分に発達していない子どもにとって、これほど難しいことはありません。
子どもは、ゆっくり学生服を着ているのではありません。
ゆっくりでないと着られないのです。
朝から指の体操をしていると考えるといいでしょう。
「時間がかかっている」というより「時間をかけている」
そこでせかない親が、尊敬されます。