においに、善しあしはありません。
「いいにおい」と「悪いにおい」を決めるのは、人間です。
そう判断する、人の脳があります。
においの快不快を判断する流れを見てみましょう。
バラのにおいを嗅いだとき、においの分子が鼻の中にある嗅細胞を刺激します。
刺激は、一種の電気信号になった後、脳の大脳皮質の嗅覚中枢へと伝わります。
この時点ではまだ、においの快不快は、判断されません。
刺激が、大脳辺縁系に到達してから、においの好き嫌いが判別され、喜怒哀楽の感情が伴います。
では、何を持って、快不快を判断するのかというと「生まれてからの経験」です。
実のところ、人間は生まれたとき、においの善しあしがない状態で生まれます。
生まれたとき、いいにおいか悪いにおいか、わかりません。
生まれてから、においに関する経験を重ねることで、においの善しあしが記憶されます。
たとえば、幼いころ、親がバラの花のにおいを嗅ぎ、嬉しそうな顔をしているのを見て「これがいいにおいなのだな」と判断します。
親が糞のにおいを嗅いだとき、嫌な顔をするのを見て「なるほど。これは悪いにおいなのか」と判断します。
こうした経験を重ねることで、においの好き嫌いを、覚えるのです。
生まれたばかりの赤ちゃんに糞のにおいを嗅がせても、平気な顔をします。
欧米では、わきがが一般的ですから、脇のにおいは問題視されません。
世の中には、汗のにおいが好きな人もいますし、バラの香りが苦手という人もたくさんいるわけです。
足のくさいにおいが大好きという人さえいるから、驚きです。
においの記憶は人それぞれですから、においに伴う快不快も、個人差があるのです。
この点が大切です。
自分がいいにおいだと思う価値観を他人に押し付けようとすると、トラブルに発展することがあります。
たとえば、香水です。
自分がいい香りだと思っても、他人には異臭と感じることがあります。
「なぜ、この香りのよさがわからないの!」と思いますが、そういうものなのです。
においの価値観は、人それぞれだという理解が必要なのです。