初代クッピーとの別れは、ある日、突然でした。
まったく予想もしない形でした。
何の前触れもなく、急に姿をくらましました。
ある朝、散歩に出かけようと犬小屋に向かうと、リードに犬の噛んだ跡があり、切られていました。
これまでも、こういうことは何度かありました。
しばらく経てば、きちんと家に帰ってきます。
「欲求不満で、どこかに遊びに行っているのだろう」
しかし、そのときは違っていました。
家に戻っても、クッピーはいません。
「おかしいな、どうしたんだろう」
もちろんそこら中、探し回りました。
家族総出で、辺り一帯、心当たりがある場所はすべて探しましたが、見つかりませんでした。
「クッピー、クッピー」といくら呼んでも、帰ってきません。
いつもなら「クッピー」と呼ぶやいなや、どこからでも飛んでやってきます。
嫌な予感がしました。
夜も更けてきたので、仕方なく次の日まで待ちました。
朝になっても、まだクッピーは戻ってきていません。
それから3日、5日、10日とたちましたが、帰ってくることはありませんでした。
1カ月が経っても、もう目にすることはありませんでした。
不思議なこともありました。
ご近所を探し回りましたが「見たよ」という目撃例が、1つもありません。
似た犬を見たという情報があれば、手がかりにもなりますが、それすらない。
本当に突然、消えてしまった。
以前は、15キロも離れたところにいても、きちんと家に戻ってきたくらいの優秀な犬です。
犬の帰巣本能を信じました。
しかし、そのまま帰ってくることは、二度とありませんでした。
祖父は言いました。
「犬はね、死ぬ直前、飼い主の元を離れるものだ」
なぜと聞くと、こう答えます。
「飼い主を悲しませないため」
なんと、犬というのは死ぬ直前、飼い主を悲しませないように、ひっそり飼い主の元を離れるといいます。
これまでお世話になった犬が、飼い主を悲しませないようにする、せめてもの恩返しといいます。
本当にそのとおりだったのかは定かではありません。
クッピーのみぞ知ることです。
しかし、その話のとおりであるかのように、クッピーはある日、消えてしまいました。
本当に死んだのかどうかもわかりませんから、悲しい気持ちも実感が湧きにくい。
そのまま、クッピーとの最後の別れになりました。
私は今回執筆の動機の1つに「クッピーへの恩返し」があります。
クッピーがそうしてくれたように、私も何か返せることをしたかった。
犬と接していると、人間のようです。
そこで得たことは山ほどあり、あらためて整理しようと思ったのでした。