告白します。
私はまだ分別のつかない幼いころ「ベッドは下で寝るもの」と思っていました。
「え? ベッドの下?」
水口家のベッドは少し背が高くて、ベッドの下には物が置けるような空間がありました。
「大人たちは、なぜわざわざあんな高いところで寝るのだろうか。落ちたら大変じゃないか。ベッドの下のほうが暗いし安全だ」
わざわざ高いベッドに上るより、ベッドの下で寝るほうが、子どもにとって都合がよかった。
「タカヒロ! ベッドの下で寝るのはやめなさい。ベッドの上で寝なさい」
よく親から叱られていました。
今思えば笑えるような話ですが、実際にあった話です。
幼いころ、そういうことを真剣に思っていた時期があります。
なぜ大人と子どもとで、ベッドの見方が変わるのでしょうか。
身長差が、大きいからです。
親として忘れがちなのは、子どもの低い身長です。
同じ場所に立ってはいても、身長差が全然違うので、見える世界が違います。
親は身長が高いので、ベッドの上で寝ると思います。
大人は身長が高いので、ベッドの上に乗るのも簡単です。
しかし、子どもは身長が低いので、ベッドの上が見えませんし、そもそも上るのも大変です。
「ベッドから落ちたらどうしよう。大けがをしそうだ」という不安もあります。
面倒だったり不安だったりするので、ベッドの下で寝るほうがいいと思ってしまいます。
食卓のテーブルも同じです。
大人にとって食卓のテーブルとは、食事をするところに見えます。
テーブルを上から見ることになるので、テーブルに並んでいる食事が見えることでしょう。
一方、子どもにとっては、下からテーブルを見ることになります。
テーブルの上に食事が並んでいても、わかりません。
だから、いろいろないたずらをしてしまいます。
テーブルの足を押したり引いたり、椅子を動かしたりして、遊んでしまいます。
ごみ箱も同じです。
身長の高い大人には、上からごみ箱の中がのぞけるので、一目でごみ箱だとわかります。
しかし、子どもは自分と同じくらいの身長のごみ箱を、単なる障害物だと思います。
移動させたり転がしたりして、遊んでしまいます。
なんと驚くことに、子どもはかくれんぼのとき、ごみ箱の中に入ろうとします。
大人は体が大きいので、そんなことは考えもしませんが、子どもはそういう発想をします。
では、子どもの見る世界を知るためにはどうすればいいのでしょうか。
単純なことです。
親は四つん這いになりましょう。
親が子どもと同じように、視点を低くして、見える世界を確認すればいい。
ぐっと視点を低くしてみると、親は子どもの見える世界が理解できるはずです。
普段と変わらない自分の部屋が、四つん這いになるだけで、見える世界が変わります。
同じ部屋の大きさも、低い位置から見ると、妙に広い部屋だという印象を受けることでしょう。
子どもの目になって見ることができるようになるのです。