1970年代後半、イギリスとフランスが共同開発した、一大国家プロジェクトがありました。
世界初の超音速ジェット旅客機「コンコルド」です。
スピードは、マッハ2.0。
つまり、音の2倍のスピードで空を飛ぶ飛行機です。
1976年就航し、通常の旅客機で8時間かかるニューヨーク・ロンドン間を、4時間で結べました。
大幅な時間の短縮です。
「死ぬまでに一度は乗ってみたい」
当時は夢の飛行機が登場したとして、多くの人が憧れました。
しかし、コンコルドにはスピードが速いために発生する難題がいくつかありました。
せっかくイギリスとフランスが巨額と時間を費やした事業です。
さらに巨額を投じて改善に取り組みますが「長い滑走路」「騒音」「高額」の3大欠点はなかなか改善できませんでした。
これらのネックに拍車をかけたのは、第2次オイルショックによる燃料価格の高騰です。
ただでさえ高額な航空券がさらに急騰し、会社の経営を傾けました。
欠点はありましたが、真剣に向き合わず、なかなか中止を踏み切れませんでした。
そんな中、ついに起きてはいけないことが起こります。
墜落事故です。
コンコルドは、音速で飛ぶため、ささいな衝撃が大きくなりやすい。
一時期、飛行時間あたりの事故率が最も低いため「安全旅客機」とされてきました。
しかし、度重なる航空事故のため、逆に最も高い「危険旅客機」という悪評に変わってしまいました。
2003年、定期運航を終了。
コンコルドは当時の注目を大きく集めましたが、商業的には最大の失敗作の1つといわれています。
これを「コンコルド効果」と呼びます。
投資が多くなるにつれて、投資がやめられなくなる状態を指します。
その後、経営者たちには悪い手本とされています。
何でもそうですが、巨額のお金や長い時間をかけたものは「手放しにくい」という心理が出てきます。
人間ですから、投資したことを手放すときには「もったいない」という気持ちが出てきます。
時間やお金をかけたものほど、手放したくない気持ちが大きくなり、経営判断を狂わせます。
先のコンコルドの例も、早い時期に撤退していれば、経済損失を小さくできたはずです。
しかし、もったいないからいつまでも商業からの撤退の決断がなかなかできず、ずるずる引き延ばして損失が大きくなる。
ついには死者まで出してしまうという最悪のケースに至ってしまいました。
このケースから学ぶことは「もったいない」という感情との戦いです。
無駄と思ったら撤退は誰でもわかりますが、惜しむ感情が絡むと、正しい判断がしにくくなります。
「もったいない」という感情は、人間らしい美点ではありますが、不況を乗り越えるうえでは注意したい感情です。
感情を捨てて、冷静になったうえで「本当に必要なのか」と考えることです。
不況のときこそ、コンコルドの失敗例を思い出したい。
「もったいない」という感情が、経営判断を狂わせていないでしょうか。
諦める勇気こそ、最大の不況対策。
正しい撤退は、前進です。
早い時期に身を引いたほうが痛みは小さい。
撤退時期が遅ければ遅いほど、痛みも大きくなります。
無駄・不要と感じたことは「もったいない」という感情や痛みをこらえ、潔く身を引くべきなのです。